「シーン」って音が聞こえる→耳音響放射があるから
Q:「シーン」って音が聞こえる
A:
実に難しい質問です。
おそらく、専門の方からもっと詳しい回答が得られるでしょうが、私の知る範囲で回答してみます。
人間の耳の神経の仕組みは意外なほど複雑です。
鼓膜が音によって振動して、それを「有毛細胞」が神経細胞として働いて脳に伝えます。
普通の神経細胞であれば、情報の伝わる方向は、「耳→脳」の一方向で十分です。
ところが、有毛細胞には内有毛細胞と外有毛細胞の2種類があって、なぜか「脳→耳」の外有毛細胞の方が3倍もあります。
つまり、耳は体の外から来る音に反応するだけでなく、脳から来る信号にも反応するのです。
1977年にロンドン大学耳鼻咽喉科のケンプ(David Kemp)という人が、耳が音を感じるだけでなく、自ら音を「発して」いることを発見しました。
無音の状態のところに人を連れて行って、耳に高感度のマイクを向けると、本当に耳から音がするのです。
この現象を「耳音響放射」といいます。言ってみれば、これが「耳鳴り」です。
工学業界の用語で言えば、このような仕組みを「ポジティブ・フィードバック」と言います。日本語では「正帰還」と直訳しています。
外部からの信号に対して、プラス方向にセンサーなどを働かせる仕組みです。
この仕組みがあると、センサーはとても「敏感」になります。
人間の耳が、かすかな音から極めて大きな音まで幅広く対応できるのも、この仕組みによるものと言ってよいでしょう。
詳しくは、次の日経サイエンスのWebページを見てください。
http://www.nikkeibook.com/science/beyond-discovery/ear/09.html
----以下引用
ハドスピスをはじめとする研究者の実験によって有毛細胞の働きが細部まで詳しく解明されたが,内耳にはまだ驚くべき働きがあるようだ。近年に見つかった最も奇妙な現象は「耳音響放射」だろう。1977年,ロンドン大学耳鼻咽喉科のケンプ(David Kemp)は,蝸牛が音を感じるだけでなく,自ら音を「発して」いることを発見した。耳鳴りという現象はほとんどの人が知っている。この耳鳴りが完全に主観的な現象とは言い切れず,実際に耳が音をたてている場合があるのだ!耳の中に敏感な集音マイクを取り付けてみたところ,蝸牛の中の何かが小さな拡声器のような働きをし,音を発生していることが確認された。
----引用終わり
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視覚と異なり、聴覚は比較的単純だろうと思っていたが、脳科学の世界に至るとやたら難しい。